ドパミンD2受容体阻害薬:定型抗精神病薬:グラマリール(一般名:チアプリド)
ドパミンD2受容体阻害薬:定型抗精神病薬:グラマリール(一般名:チアプリド)
脳梗塞を発症すると、脳にダメージが起こります。その結果、認知症のような症状を生じることがあります。つまり、精神的な興奮や徘徊などが症状に表れます。
また、脳梗塞後の諸症状だけでなく、イライラ・幻覚・妄想・興奮など精神的な興奮を起こしている場合はこれを鎮める必要があります。激しい感情や言動が繰り返されている場合、これを抑えることは重要です。
そこで、これらの症状を改善するために使用される薬としてグラマリール(一般名:チアプリド)があります。
グラマリールはD2受容体遮断薬と呼ばれる種類の薬になります。「ベンザミド系の第1世代抗精神病薬」と表現されることもあります。
グラマリール(一般名:チアプリド)の作用機序
脳の興奮や幻覚などに関与している物質として、ドパミンが知られています。脳内のドパミン量が多くなっている病気に統合失調症があります。大量のドパミンが放出されることにより、幻覚や幻聴、妄想などの症状が表れます。統合失調症では、これを陽性症状といいます。
このようなとき、脳内で作用するドパミンの働きを抑えることができれば、正常な状態へと近づけることができます。その結果、症状が治まります。
ドパミンが脳の興奮や幻覚に関与していることから、ドパミンを抑える薬は「脳の興奮を鎮める薬」であると考えることができます。つまり、ドパミンの働きを抑えれば、精神症状による激しい感情や言動の抑制に繋がります。
ドパミンはドパミン受容体(D受容体)に作用することで、その効果を発揮します。その中でも、精神症状ではD2受容体が大きく関与しています。
そこで、D2受容体を阻害すれば、攻撃的行為や徘徊、せん妄などの症状を抑制できるようになります。ドパミンが作用できなくなるため、その分だけ症状が抑えられるのです。
このような考えにより、ドパミンの働きを抑制することで精神的な興奮を鎮めようとする薬がグラマリール(一般名:チアプリド)です。
グラマリール(一般名:チアプリド)の特徴
脳梗塞が起こると、認知症のような症状を発症することがあります。これを、脳血管性認知症といいます。認知症を発症すると、攻撃的行為や精神興奮、徘徊、せん妄などが表れます。
ただ、これら脳梗塞後に起こる症状だけでなく、精神症状に対してもグラマリール(一般名:チアプリド)が広く利用されます。
また、抗精神病薬(統合失調症治療薬:メジャートランキライザー)を服用していると、パーキンソン病のような症状が表れることがあります。パーキンソン病はドパミンの働きが弱くなることで生じるため、ドパミンの作用を弱めるように働く抗精神病薬はパーキンソン病様の症状が表れるのです。
パーキンソン病とは異なり、薬の副作用によってパーキンソン病のような症状が表れることを薬剤性パーキンソニズム(薬剤性パーキンソン症候群)といいます。
抗精神病薬によって抗ドパミンの作用が強まり、体の一部が勝手に動いてしまう症状をジスキネジアといいます。ジスキネジアでは無意識に口や手足が動いてしまいます。
抗精神病薬を長期間服用することで、治療が難しくなる遅発性ジスキネジアを発症することがあります。他にも、アカシジアやジストニアなどの症状を生じることがあります。
このとき、グラマリール(一般名:チアプリド)はジスキネジアの症状を改善させることでも知られています。グラマリールを投与しても、パーキンソン病様症状をほとんど悪化させないと考えられています。
グラマリールを使用することによる鎮静作用は、脳の意識レベルを低下させるまでには至りません。そのため、日常生活に影響を与えずに症状を緩和します。
副作用は比較的少ないですが、脳を鎮めるために眠気やめまい・ふらつきなどが主な副作用として知られています。
このような特徴により、さまざまな精神症状の改善に対して使用され、パーキンソン病に伴うジスキネジアの治療にも用いられる薬がグラマリール(一般名:チアプリド)です。
グラマリール(一般名:チアプリド)の効能効果・用法用量
グラマリールは精神の高ぶりを抑えることで攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄などを改善する薬ですが、脳梗塞後遺症以外にも多くの精神疾患に活用されます。また、前述の通りパーキンソニズムにも活用されます。
実際に薬を使用するとき、1日75〜150mgを3回に分けて服用していきます。年齢や症状によっては増量や減量をしていきますが、脳梗塞後の精神症状に対して、グラマリールを6週間投与して効果が見られない場合は中止するという日数制限があります。
また、薬の副作用によって生じるパーキンソニズムを治療するとき、「1日1回、25mgから投与を開始する」のが望ましいです。
グラマリールには25mg、50mg、細粒10%があるため、それぞれの剤型を活用していきます。
なお、患者さんによっては一包化や半錠、粉砕をすることがあります。グラマリールは一包化や粉砕をしても問題ない薬であり、胃ろう患者への簡易懸濁法も問題ありません。ただ、有効成分に苦みがあることと、吸湿性があるので防湿保存が必要なことに注意が必要です。
グラマリール(一般名:チアプリド)の副作用
それでは、グラマリール(一般名:チアプリド)にどのような副作用があるのかについて、より詳しく確認していきます。
グラマリールの主な副作用としては眠気、めまい・ふらつき(転倒)、口渇(のどが渇く、不眠、振戦(手足のふるえ)、パーキンソン症候群、流涎(よだれ・唾液が出る)などが知られています。
その他、不整脈、頻脈、血圧上昇、血圧低下、乳汁分泌、月経異常、抑うつ、頭痛・頭重、脱力・倦怠感、しびれ、排尿障害、尿失禁、耳鳴り、悪心・嘔吐(吐き気)、腹痛、食欲不振、便秘、口内炎、下痢、食欲亢進、発疹、かゆみ、発熱、ほてり、貧血などがあります。
グラマリールによる錐体外路障害(パーキンソン病のような症状)の副作用としては、ジスキネジアの他に言語障害、アカシジア、ジストニア、嚥下障害(誤嚥)、筋強剛、運動減少、姿勢・歩行障害などがあります。
アカシジアでは足がむずむずする症状が表れ、じっとしていられません。アカシジアではレストレスレッグス症候群(むずむず足症候群)と同じような症状が表れます。また、ジストニアでは無意識に筋肉が動いてしまいます。
重大な副作用には悪性症候群があります。強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗などの症状が表れた場合、投与を中止して水分補給などの処置を行う必要があります。
悪性症候群によって高熱が続いた場合、意識障害、呼吸困難、循環虚脱、脱水症状、急性腎不全などを起こして死亡した例もあります。また、昏睡やけいれん、不整脈(QT延長・徐脈、心室頻拍)も重大な副作用です。
なお、グラマリールを過剰投与した場合はパーキンソニズムや昏睡などの症状が表れることがあり、この場合は対症療法による対策がメインです。
グラマリール(一般名:チアプリド)の禁忌や飲み合わせ(相互作用)
臓器の一つである下垂体からは、プロラクチンというホルモンが分泌されます。このとき、下垂体に腫瘍(がん細胞)が作られると、そこからプロラクチンがたくさん分泌されるようになります。
こうした患者さんにグラマリールを投与すると、よりプロラクチンの分泌が活発になります。ドパミンの働きを阻害することにより、高プロラクチン血症を悪化させてしまうのです。
プロラクチンは授乳婦などで分泌されるため、プロラクチンが分泌されると月経不順などさまざまな症状が表れるようになります。
そのため、下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)でプロラクチンがたくさん分泌されている人に対して、グラマリール(一般名:チアプリド)は禁忌です。
なお、グラマリールに併用禁忌の薬は設定されていませんが、併用注意の薬は存在します。抗精神病薬、睡眠薬、抗パーキンソン病薬など、主に中枢神経(脳や脊髄)に作用する薬とは併用注意です。
アルコール(お酒)についても併用注意であり、中枢神経への作用を増強させる恐れがあります。絶対にアルコールを飲んではいけないというわけではありませんが、飲酒によってグラマリールの作用が強まることは理解しなければいけません。
高齢者への使用
グラマリール(一般名:チアプリド)は主に腎臓から排泄されます。特に高齢者では腎機能が低下している人が多くなりやすいため、そうした人ではグラマリールの排泄がうまくできにくくなっています。
特に腎機能低下の人や腎不全患者(透析患者など)ではグラマリールの作用が強く表れやすいです。そうした場合、「1回25mgを1日1〜2回で服用する」など低用量から始めることを検討します。錐体外路障害などの副作用が表れないかどうかを確認しながら使用していきます。
小児(子供)への使用
小児にグラマリールを使用することについては、安全性が確立されていません。
ただ、抗精神病薬を含めこうした薬を使用して統合失調症を治療しようとしたとき、ジスキネジア(口をもぐもぐ、歯ぎしり、勝手に手足が動く)やジストニア(首のひきつり、目玉ぐるぐる)などの副作用を改善するためにグラマリールが処方されることはあります。
妊婦・授乳婦への使用
妊娠中の方へグラマリール(一般名:チアプリド)を投与することについて、安全性は確立されていません。ただ、妊婦への投与は禁忌でないため、治療の有益性が上回ると判断された場合は処方されることがあります。
ちなみに、抗精神病薬を使用することによって、胎児に催奇形性が表れたという報告はありません。
ただ、抗精神病薬を服用していた妊婦から生まれた子供では、最初の数日(特に生まれたて)は傾眠やけいれんなどの症状が表れやすくなる傾向があります。
また授乳婦であれば、多剤を併用していて母乳中への移行が心配な場合は授乳を中止します。基本的には母乳をあげるかどうかよりも、母親の精神状態の安定を優先させる必要があるため、このときは母乳育児よりも粉ミルクなどの活用を検討するといいです。
グラマリール(一般名:チアプリド)の効果発現時間
次に、グラマリール(一般名:チアプリド)の作用時間や効果発現時間について確認していきます。
内服薬としてグラマリールを投与したとき、血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高値に到達する時間は1.8時間です。また、半減期(薬の濃度が半分になる時間)は5.75時間です。
薬を服用して1時間以内に作用するようになり、17〜23時間ほど経過すれば体内から大部分の薬が排泄されるようになります。
1日3回服用すると、薬の効果はずっと続くようになります。頓服で使用する場合でも素早く効果を表すようになりますが、24時間作用が続くわけではありません。
ただ、中等度以上の腎障害をもつ人の場合、グラマリールを投与したときの半減期は2倍以上になります。それだけ薬の作用が強く表れやすくなるため、使用する場合は少量から服用していきます。
なお、臨床試験ではグラマリールを投与することによって、ジスキネジアの症状を80%以上で改善したことがわかっています。このうち著明改善は29%であり、中等度改善以上は59%です。
認知症へのグラマリール
暴言、暴力、徘徊、妄想、幻覚、不眠、抑うつなどの症状が表れるもののうち、認知症による症状もあります。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など、脳血管障害によって認知症を生じることがあり、脳梗塞後遺症によって徘徊、せん妄などの症状が表れるのは、認知症の一種だといえます。
ただ、認知症には他にも種類があります。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)などです。
アルツハイマー型認知症では脳の萎縮によって判断力が低下し、レビー小体型では幻視などが表れ、前頭側頭型認知症(ピック病)では万引きや痴漢など反社会的行動が目立つようになります。
認知症ではどれも記憶障害を起こしますが、記憶障害は必ず起こる症状なので中核症状と呼ばれています。一方で幻覚や妄想、不眠、抑うつ、無関心などは人によって表れたり表れなかったりします。そこで、こうした症状は周辺症状(BPSD)と呼ばれます。
認知症治療薬は中核症状を含めて改善しますが、グラマリールは暴力、徘徊、せん妄などの周辺症状を緩和させるために活用されます。
認知症治療薬としてはアリセプト(一般名:ドネペジル)、レミニール(一般名:ガランタミン)、イクセロンパッチ・リバスタッチパッチ(一般名:リバスチグミン)、メマリー(一般名:メマンチン)などが活用され、これらの薬とグラマリールを併用します。
認知症の周辺症状を改善させるとき、神経の高ぶりを抑える抑肝散という漢方薬を活用することがあり、抑肝散とグラマリールを併用することもあります。
特にアルツハイマー型認知症の場合、アセチルコリンの働きを抑える「抗コリン作用」を有する薬を使用すると症状悪化をもたらす可能性があります。グラマリールには抗コリン作用がなく、認知症患者であっても使用することができます。
ただ、患者さんによっては「奇異反応」と呼ばれる、本来予想される作用とは逆の働きを生じることがあります。つまり、グラマリールの投与によって攻撃性や妄想、幻覚・幻聴・幻視、せん妄などの悪化を招くことがあるため、この場合は使用中止します。
なお、認知症患者では周辺症状を抑えるために他にも薬が活用されます。例えば、抗てんかん薬デパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)、抗不安薬デパス(一般名:エチゾラム)、睡眠薬マイスリー(一般名:ゾルピデム)などです。これらの薬とグラマリールを併用することもあります。
グラマリール(一般名:チアプリド)の同効薬
精神安定に活用される薬は他にも存在します。
例えば統合失調症の治療薬であれば、セレネース(一般名:ハロペリドール)、ドグマチール(一般名:スルピリド)、リスパダール(一般名:リスペリドン)、セロクエル(一般名:クエチアピン)、ジプレキサ(一般名:オランザピン)、エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)などがあります。
セレネース(一般名:ハロペリドール)、ドグマチール(一般名:スルピリド)は定型抗精神病薬と呼ばれ、統合失調症の急性期に起こる陽性症状(幻覚、幻聴、妄想、思考障害など)に有効です。ただ、慢性期の陰性症状(会話困難、抑うつ)などの症状には効果を示しません。
一方でリスパダール(一般名:リスペリドン)、セロクエル(一般名:クエチアピン)、ジプレキサ(一般名:オランザピン)は非定型抗精神病薬と呼ばれ、陰性症状に対しても効果を有します。
また、エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)はドパミンD2受容体を遮断しつつも、完全にはD2受容体を阻害しないため副作用が表れにくいといわれています。
これらの薬とグラマリールを併用すると錐体外路障害などの副作用を生じやすくなる可能性はあるものの、グラマリールとの併用によって病気を治療することがあります。
なお、セロクエル(一般名:クエチアピン)、ジプレキサ(一般名:オランザピン)は血糖値の上昇を招く恐れがあるので糖尿病患者に禁忌ですが、グラマリールでは血糖値に影響を与える薬ではないので糖尿病患者にも使用できます。
精神興奮を抑えるグラマリール
その他、適応外処方によってグラマリール(一般名:チアプリド)はさまざまな精神興奮を抑えるために活用されます。
例えば、激しい動悸や発汗、頻脈、息苦しさなどが突然起こる病気としてパニック障害があります。こうしたパニック障害には抗不安薬デパス(一般名:エチゾラム)などを活用しますが、グラマリールを用いることがあります。
主にパーキンソニズムの改善や認知症による周辺症状に対して用いられる薬ですが、多くの精神症状に対して用いられる薬がグラマリールです。
グラマリール(一般名:チアプリド)にはジェネリック医薬品(後発医薬品)も存在し、安い薬価で薬を活用することができます。精神病に対して用いられる薬なので副作用には注意する必要があるものの、精神安定のために多くの人に利用されます。