甲状腺機能亢進症治療薬:プロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)
喉に存在するハート型の臓器として甲状腺があります。甲状腺からはホルモンが分泌されており、このホルモンを甲状腺ホルモンと呼びます。
甲状腺ホルモンは体の新陳代謝に関わっています。そのため、甲状腺ホルモンが多量に分泌されると、新陳代謝が活発になる過ぎることで疲れやすくなったり、動悸・頻脈などが起こったりします。これを、甲状腺機能亢進症と呼びます。
そこで、甲状腺の機能が強くなり過ぎている状態を改善する薬としてプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)が使用されます。プロピルチオウラシルは甲状腺ホルモンの生成を阻害することで、甲状腺機能亢進症を治療します。
甲状腺ホルモンで重要となる元素としてヨウ素(I)があります。ヨウ素は甲状腺に集まる性質を持っていますが、これは甲状腺ホルモンを作り出すときにヨウ素(I)が必要不可欠であるためです。
甲状腺ホルモンの構造を確認すると、その構造中にはヨウ素が含まれています。アミノ酸の一種であるチロシンを元にして、チロシンにヨウ素を結合させることで甲状腺ホルモンを合成していくのです。
チロシンの構造にヨウ素が1つ結合すると、モノヨードチロシンとなります。ここに2つ目のヨウ素が結合するとジヨードチロシンになります。
ジヨードチロシンに対して、ここからさらに反応が進むことでヨウ素が3つ結合したトリヨードチロニン(トリヨードサイロニン:T3)、ヨウ素が4つ結合したチロキシン(サイロキシン:T4)が生成されます。
この化合物の中でも、トリヨードチロニン(トリヨードサイロニン:T3)とチロキシン(サイロキシン:T4)が甲状腺ホルモンです。
この時、「チロシンにヨウ素が結合する過程」を阻害すれば、新たに甲状腺ホルモンが作られなくなることが分かります。このような考えによって甲状腺ホルモンの合成を抑制する薬がプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)です。
プロピルチオウラシルは、「チロシン→モノヨードチロシン」や「モノヨードチロシン→ジヨードチロシン」の合成過程を阻害します。また、ヨウ素が2二つ結合したジヨードチロシンから甲状腺ホルモン(トリヨードチロシンやチロキシン)を合成する過程を阻害する作用も知られています。
なお、甲状腺ホルモンの強さはチロキシン(T4)よりもトリヨードチロニン(T3)の方が数倍強いとされています。プロピルチオウラシルは「チロキシン(T4)→トリヨードチロニン(T3)」の変換も阻害するため、これによっても甲状腺ホルモンの作用を抑えることができます。
プロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)の特徴
甲状腺が働きが活発となっている時、これを治療するためには「甲状腺を切除する」や「放射線によって甲状腺の機能を弱める」などの方法が知られています。そして、薬を使用するという選択肢もあり、この薬としてプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)が使用されます。
甲状腺機能亢進症として、バセドウ病が知られています。このバセドウ病を治療するため、甲状腺ホルモンの生成を抑えるのです。
なお、同じ甲状腺機能亢進症の治療薬としてはチアマゾール(商品名:メルカゾール)も知られています。その有効性や副作用の観点から、治療薬としてはプロピルチオウラシルよりもチアマゾールの方が多用されます。
ただし、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症は、妊娠可能な若い女性が罹りやすい病気です。その点、チアマゾール(商品名:メルカゾール)を妊娠初期に使用すると、胎児に奇形が生じる危険性が報告されています。
そのため、妊婦や授乳婦はプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)を使用する方が望ましいとされています。母乳への移行もプロピルチオウラシルの方が少なく、乳児へ影響しないと考えられています。
このような特徴により、甲状腺機能亢進症の症状を抑え、妊婦や授乳婦に対しても使用できる薬がプロピルチオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)です。