抗LANKリガンドモノクローナル抗体:デノスマブ(商品名:プラリア)

抗LANKリガンドモノクローナル抗体:デノスマブ(商品名:プラリア)

骨粗鬆症は骨がスカスカになる病気であり、骨の成分が溶け出していくことで骨折が起こりやすくなってしまいます。

 

 

そこで、6ヶ月に1回注射を行うことで骨粗しょう症を治療する薬としてデノスマブ(商品名:プラリア)があります。皮下に注射する製剤であり、プラリア皮下注として使用されます。

 

 

プラリア(一般名:デノスマブ)が作用する標的は骨が溶け出す過程に関与するRANKリガンド(RANKL)と呼ばれる受容体であり、この受容体を阻害することによって骨粗しょう症を治療します。

 

 

それでは、骨の代謝回転と関連させて説明していきます。

 

 

骨の代謝回転のメカニズム

骨は一度作られればそれで終わりではなく、「骨が壊される過程」と「骨が作られる過程」を絶えず繰り返しています。つまり、一見すると何も変化がないように見えたとしても、実は新しく骨が作られたり壊されたりしているのです。

 

 

このような骨の代謝回転を骨のリモデリングと表現します。

 

 

この時、骨が壊される過程と骨吸収と呼び、骨が作られる過程を骨形成と呼びます。骨粗しょう症患者ではこの骨の代謝回転のバランスに異変が起きています。

 

正常な状態であると、骨吸収と骨形成のバランスが保たれています。しかし、骨粗しょう症患者では骨吸収(骨が壊される過程)の方が優位になっています。そのため、骨がどんどん壊されていって脆くなってしまうのです。

 

 

このように、骨粗しょう症では骨代謝に異常が起こっています。そこで、骨粗しょう症の治療薬ではこのバランスを何とか整えようとします。

 

 

 

プラリア(一般名:デノスマブ)の作用機序

骨の代謝回転が起こるとき、骨吸収(骨が壊される過程)に関与する細胞として破骨細胞があります。この破骨細胞が働くことによって、骨が溶け出していくのです。

 

 

そのため、この破骨細胞の働きを抑えることが出来れば骨粗しょう症によって骨が脆くなる過程を抑えることができるはずです。この破骨細胞の活性化にプラリア皮下注の標的であるRANKリガンド(RANKL)が大きく関与しています。

 

 

RANKリガンド(RANKL)は破骨細胞の形成、機能調節に関わっています。骨粗しょう症患者ではRANKリガンド(RANKL)の数が増えており、これによって破骨細胞のより活性化しやすい環境が整ってしまっています。つまり、骨が脆くなりやすくなっています。

 

 

そこで、このRANKリガンド(RANKL)を阻害してやります。この働きをするのがプラリア皮下注です。

 

 

プラリア皮下注の主成分であるデノスマブは抗体の一種(モノクローナル抗体)であり、選択的にRANKリガンド(RANKL)を抑制することができます。その結果、破骨細胞の働きを抑えることによって骨が溶け出していく過程が遮断され、骨粗しょう症を治療することが出来ると考えられています。

 

 

これにより、骨密度や骨量の上昇を期待することができます。

 

※デノスマブ(商品名:プラリア)の分類:抗RANKLモノクローナル抗体

 

 

なお、主成分であるデノスマブはランマーク皮下注という名前で既に発売されていました。ただし、ランマーク皮下注は骨粗しょう症ではなく、がん患者での骨病変(骨の異常)に対して使用される薬です。

 

 

がん患者ではがん細胞の骨転移が起こっているケースがあります。この場合、がん細胞の骨転移により、骨の破壊に関わる破骨細胞が活性化しています。その結果、異常に骨吸収が促進されます。このがん細胞による破骨細胞の活性化にRANKリガンド(RANKL)が関与しているのです。

 

 

そのため、ランマーク皮下注の投与によってRANKリガンド(RANKL)を阻害し、異常に骨が壊されていく過程を抑え、がん患者での骨病変を抑制することが出来ます。

 

 

主成分は同じであっても、以下のように投与量を変えることで骨粗しょう症の治療薬とした薬が今回のプラリア皮下注となります。

 

 

 

プラリア皮下注

 

ランマーク皮下注

 

使用される病気

 

骨粗しょう症

 

がん細胞の骨転移による骨病変

 

使用方法

 

60mgを6ヵ月に1回、皮下投与

 

120mgを4週間に1回、皮下投与

 

主成分

 

デノスマブ

 

作用機序

 

RANKリガンド(RANKL)の阻害

 

 

このように、骨粗しょう症とがんでは薬の使用量が大きく異なってきます。ただし、今回のように投与間隔や使用量を変えることによって他の病気に適応させることもできます。

 

 

臨床試験ではプラリア皮下注を投与する事によって、椎体骨折の発生率を相対リスクで66%減少させることが分かっています。

 

 

また、何も薬を投与していない群(プラセボ群)と比較して、2年後の骨密度が腰椎で9.0%、大腿骨近位部で5.7%、大腿骨頸部で5.1%、橈骨遠位端1/3で2.3%高いことも明らかになっています。

 

 

抗体医薬品といえばがんやリウマチの治療薬として使用されてきましたが、骨粗しょう症の治療薬でも使われます。

 

 

プラリア(一般名:デノスマブ)の効能・効果

・骨粗しょう症

 

 

プラリア皮下注60mg(一般名:デノスマブ)は、骨粗しょう症の人に用いられます。骨粗しょう症とは、骨が弱くなって骨折するリスクを高める骨の病気のことです。

 

 

骨も人間の細胞と同様に日々生まれ変わっています。古くなった骨を分解し破壊する骨吸収と、新しく骨が作られる骨形成を骨は絶えず繰り返しています。

 

 

健全な人では骨吸収と骨形成のバランスがとれています。しかし、骨粗しょう症の人では骨吸収の方が優位となってしまいます。その結果、骨が弱くなり骨折しやすくなってしまうのです。

 

 

プラリアは骨吸収を行う破骨細胞(骨を壊す細胞)の働きを抑制することによって、骨が弱くなることを防いでくれます。

 

 

・関節リウマチ

 

 

また、プラリアは関節リウマチによって、骨が破壊されて骨が欠けてしまう症状(骨びらん)の進行抑制にも用いられることがあります。

 

 

関節リウマチとは関節に炎症が続いて、関節が徐々に破壊され、やがて機能不全を起こす病気です。関節リウマチが起こる理由は、自分の免疫が異常に活動した結果、自分の関節をも攻撃してしまうためだと考えられています。

 

 

自分の関節を自分の免疫が攻撃してしまった結果として炎症が起こり、骨が欠けて破壊されてしまうのです。このとき、骨の破壊には破骨細胞が関わっています。プラリアは破骨細胞の働きを抑制することで、関節リウマチによって骨が破壊されていく過程を抑えます。

 

 

 

プラリア(一般名:デノスマブ)の用法・用量

・骨粗しょう症

 

 

骨粗しょう症の人に対して、プラリア皮下注60mgは6ヶ月に1回皮下投与されます。同じ骨粗しょう症注射薬には使用期間が定められているものもありますが、プラリアには使用期間は定められていません。

 

 

プラリアは静脈ではなく必ず皮下に注射します。注射部位は上腕・太もも・お腹です。

 

 

・関節リウマチ

 

 

関節リウマチによる骨破壊に対して、プラリア皮下注60mgは6ヶ月に1回皮下投与されます。なおプラリアは3ヶ月に1回皮下投与されることがあります。それは6ヶ月に1回プラリアの投与をしても、関節の画像検査をしたとき骨破壊の進行が認められた場合です。

 

 

関節リウマチの人にプラリアを使用するとき、抗炎症作用を持つ抗リウマチ薬と併用します。併用されるのはリウマトレックス(一般名;メトトレキサート)のような「免疫細胞の働きを弱めて炎症を抑える」薬です。

 

 

 

プラリアの副作用

プラリアの主な副作用には、貧血・湿疹・高血圧・咽頭炎・口内炎・背中の痛み・肝機能障害・胃炎などがあります。

 

 

骨粗しょう症の人を対象にした臨床試験では背中の痛みが多く報告されています。また、関節リウマチの人を対象にした臨床試験では、胃炎が多く報告されています。

 

 

また なお、プラリアにはあまり頻度は高くないものの、重大な副作用があります。こうしたものとしては、以下のようなものがあります。

 

 

・低カルシウム血症

 

 

まずは血液中のカルシウム濃度が体に必要な数値を下回る低カルシウム血症です。低カルシウム血症によって、手足のしびれや痙攣(けいれん)、心電図変化(心臓の脈の乱れ)などが現れることがあります。

 

 

低カルシウム血症が認められた場合には、カルシウムやビタミンDを補充します。ビタミンDをなぜ使用するかというと、ビタミンDには血液中のカルシウム濃度を上げる働きがあるからです。

 

 

低カルシウム血症の緊急時には、カルシウムの点滴投与などプラリアと併用するなど速やかに処置を行います。

 

 

・顎骨壊死

 

 

プラリアの重大な副作用には、顎骨壊死(がっこつえし)もあります。顎骨壊死とは、あごの骨に炎症が起き、組織や細胞が部分的に死んで腐っていく病気です。

 

 

観察をしっかりと行い、顎骨壊死による異常が認められた場合はプラリアの使用を中止するなど適切な処置を行います。

 

 

投与禁忌と併用注意(飲み合わせ)

・禁忌

 

 

プラリア(一般名:デノスマブ)を投与できない人(禁忌の人)がいます。まずは、プラリアの主成分に過敏症がある人は禁忌です。

 

 

次に低カルシウム血症の人にも禁忌です。なぜならプラリアは骨吸収を抑制することで、骨から血液へのカルシウムの移動を抑制します。その結果血液中のカルシウム濃度が低下することがあります。

 

 

したがって低カルシウム血症の人には、プラリアの使用前に血液中のカルシウム濃度を適正にした後にプラリアの使用を開始します。

 

 

そして、妊婦または妊娠している可能性のある人にも禁忌です。動物の妊娠中にプラリアを使用した実験において、死産の増加、出生児の分娩後死亡の増加、骨や歯の異常が見られました。

 

 

したがって、妊娠または妊娠している可能性のある人にプラリアの使用は避けます。また、妊娠可能な人に対しては必ず適切な避妊をするようにします。

 

 

・プラリアと併用できない薬

 

 

なお、プラリアと同じ有効成分であるランマーク(一般名:デノスマブ)は併用できません。ランマークは「骨髄(骨の中にある血液の細胞を作る工場)のガン」や「ガンが骨に転移したことによる骨の痛みや骨折」などに用いられます。

 

 

ガンに使用するランマークでは、プラリア皮下注60mgと比べて有効成分「デノスマブ」を投与する量が120mgと多いです。また、プラリアが6ヶ月に1回投与なのに対して、ランマークでは多発性骨髄腫に対して4週間に1回投与と使用期間が非常に短いです。

 

 

同じ有効成分であっても、骨粗しょう症とガンでは大きく使用方法が異なります。

 

プラリアと併用できる薬

 

プラリアによって低カルシウム血症が起こることがあります。したがって血液中のカルシウム濃度が高くない限り、毎日カルシウムやビタミンDを補充しながらプラリアを投与します。

 

 

血液中のカルシウムの濃度に注意しながら、以下の薬はプラリアと一緒に用いることができます。特に活性型ビタミンD3製剤では、血液中のカルシウム濃度を高める働きをします。

 

 

〇 カルシウムを補充する薬

 

 

デノタス(一般名:沈降炭酸カルシウム・コレカルシフェロール)、アスパラCA(一般名:Lアスパラギン酸カルシウム)

 

 

〇 活性型ビタミンD3製剤

 

 

アルファロール、ワンアルファ(一般名:アルファカルシドール)、ロカルトロール(一般名:カルシトリオール)、エディロール(一般名:エルデカルシトール)、

 

 

プラリアは、「カルシウムを補充する薬」と「活性型ビタミンD3製剤」の両方と併用することもあります。このとき、カルシウムの必要な量を判断して併用する量が調節されることがあります。

 

 

プラリアと原則併用しない骨粗しょう症の薬

 

また、以下の薬とはプラリアは原則として併用しません。

 

 

〇 副甲状腺ホルモン製剤

 

 

・フォルテオ・テリボン(一般名:テリパラチド)

 

 

海外の情報では「プラリアとの併用は、骨折リスクの高い人への有効性を高める可能性がある」という報告があります。しかしそれは一部の情報であって、多くの情報では併用が治療上有効であると証明できていません。併用には両剤の副作用のリスクもありますので、原則併用は行いません。

 

 

〇 ビスホスホネート製剤(BP製剤:骨吸収を行う細胞をジャマする薬)

 

 

フォサマック・ボナロン(一般名:アレンドロン酸)、ベネット・アクトネル(一般名:リセドロン酸)、リカルボン・ボノテオ(一般名:ミノドロン酸)、ボンビバ(一般名:イバンドロン酸)

 

 

海外でプラリアとBP製剤を併用した事例で効果の上乗せは認められませんでした。BP製剤によって既に骨吸収が抑制されているため効果の上乗せがなかったと考えられています。

 

 

〇 選択的エストロゲン受容体モジュレーター:SSRM(骨吸収を抑える女性ホルモンのような働きをする薬)

 

 

・エビスタ(一般名:ラロキシフェン)、ビビアント(一般名:バセドキシフェン)

 

 

併用によって効果が高まるデータが出ていないため、原則併用を行いません。

 

 

 

プラリアの高齢者への投与

高齢者では代謝機能が落ちてしまいますが、プラリアを使用することができます。しっかりと患者さんの状態を観察し注意しながら使用します。

 

 

プラリアによる副作用の発現が、高齢者への投与によって頻度が上がった報告はありません。

 

 

プラリアの小児(子供)への使用

プラリアは、小児に対する安全性が確立していないため原則として小児には使用しません。動物の子どもへの臨床実験において、骨や歯の成長が抑制されたデータがあります。こうした結果からも、子供への使用は避けます。

 

 

 

プラリアの妊婦・授乳婦への使用

・妊婦への使用

 

 

プラリアは、妊婦または妊娠している可能性のある人には使用できません。妊娠した動物を使った臨床試験において、死産・出生児の分娩後死亡・骨や歯の異常の増加が認められています。

 

 

したがって、妊娠可能な婦人に対しては必ず、適切な避妊をするようにします。

 

 

・授乳婦への使用

 

 

授乳婦に対してもプラリアは使用できません。プラリアを使用するとき授乳を中止します。プラリアの構造上、乳汁中へ移行して赤ちゃんへ影響が出る可能性があります。

 

 

プラリア(一般名:デノスマブ)の効果発現時間

プラリアの血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高に達するまでの時間は1〜2週間ほどです。そして半減期(薬の濃度が半分になる時間)は約1ヶ月です。

 

 

このようにプラリアは血中半減期が長いため、半年に1回の皮下投与によって十分な骨吸収抑制効果を得られると考えられています。同様に、プラリアによる副作用に対して使用後しばらく間は注意する必要があります。

 

 

 

プラリアの使用上の注意

・低カルシウム血症を防ぐ

 

 

プラリアは骨吸収抑制作用があるため、血液中のカルシウム濃度が正常の値よりも下がることがあります。

 

 

したがって、血中カルシウム濃度が低い人は正常値にしてからプラリアを使用します。また、プラリア使用中にはカルシウム濃度が低下しないようにカルシウム剤やビタミンD製剤を使用します。

 

 

・顎骨壊死(がっこつえし)の注意

 

 

プラリアは骨吸収を行う破骨細胞の抑制をします。骨の生まれ変わりが抑制されるため、顎骨壊死の発現リスクが高まっていると考えられています。

 

 

顎骨壊死は、既に述べたようにあごの骨に炎症が起き細胞や組織が部分的に死んで腐っていく病気です。これまでプラリアを使用した人の中では、歯科の処置や口の中の細菌感染があった人によく顎骨壊死が起こっています。

 

 

そこで、プラリアを使用する前に抜歯などの歯科処置が必要であれば済ませておくようにします。プラリアの使用中に歯科の処置が必要になった場合、プラリアの休薬を検討します。

 

 

また、口の中を清潔に保つように注意します。口の中に異常が認められた場合は、すぐに歯科や口腔外科を受診するようにしましょう。

 

 

プラリアを慎重に投与する人

 

プラリアは重度に腎臓の機能に障害がある人や、透析を受けている人へは慎重に使用します。このような人は腎臓の機能が正常な人と比較して、低カルシウム血症の発現率が高くなる恐れがあるためです。

 

 

腎臓には、ビタミンDを活性化させる機能があります。また、腎臓には「(カルシウムなどの栄養素を再吸収する」という機能もあります。再吸収とは、尿として身体の外に排出する前に、身体に必要な物質を尿から体内に運び取り込むことです。

 

 

腎臓の機能が低下すると、ビタミンDは活性化しにくくなります。さらに、カルシウムが再吸収されず低カルシウム血症の発現率が高まってしまいます。したがって、重度に腎臓の機能に障害がある人には慎重にプラリアを使用します。

 

 

プラリアの取り扱い

 

プラリアは、凍結を避けて冷蔵庫や保冷バッグなどを活用し2〜8度で保管します。冷えている状態での注射による不快感を避けるため、プラリアは使用前に部屋の温度に戻してから使用します。

 

 

また、プラリアは薬液中に気泡が見られることがあります。しかし無害なので、シリンジから気泡を抜かないようにします。ただし「シリンジが壊れている」「薬液が濁っている」「色が変わっている」「異物が混入している」など見られた場合は使用を中止します。

 

 

使用後は分解せずに、そのまま適切に廃棄します。

 

 

このように、半年に1回の注射で従来の薬よりも骨折のリスクを下げることができる薬がプラリア(一般名:デノスマブ)です。